もはや交響曲という範ちゅうを超え、人類の宝とも言える芸術作品。かつて古典派の時代には、純粋な器楽形式であった交響曲を、理念や世界観を内包するロマン派的な芸術形式に変貌させた転換点であると同時に、「言語」と「音楽」という、その後も続く芸術学的課題にベートーヴェンが一つの答えを出したものとも言えよう。
Alle Menschen werden Brüder! / 全ての人間は兄弟になる
この一節に込められたシラーのメッセージをベートーヴェンがいかに作品化したのか、この作品を演奏する者は、言葉ではなく、音楽によって、全身で体感できるだろう。闘争的で英雄的な第1楽章、ニヒルな喜悦に富んだ第2楽章、そして、はかないまでの平安の喜びに満ちた第3楽章、すべてが合唱、独唱とともに壮大な歓喜の歌を歌い上げる第4楽章への求心力を持ち、一つの作品として結晶化しているのが本当に素晴らしい。
演奏は難しいが、奏者の苦労に報いてくれる至高の芸術作品だ。
アンケートの全回答者中、本作品に「最も好きな作品」28名、「二番目に好きな作品」29名、「三番目に好きな作品」18名が投票し、選好度ポイント計算の結果、全体の第5位となる245ポイントを獲得。名作揃いのベートーヴェンの作品中、最も高い支持を集めて5位に入賞した。
(注)選好度ポイント=「最も好きな作品」回答数*5点+「二番目に好きな作品」回答数*3点+「三番目に好きな作品」回答数*1点
高い評価を得た順では、チェロが1位、フルート、ホルンが2位となっている。全般的に弦楽器とホルンからの支持の高さが目につくが、結構活躍するオーボエと打楽器からの支持はまったく得られていない。オーボエに関しては、らしく歌う個所は意外に少ないのかもしれない。打楽器に関しては聞かせどころが多いが、反面、難しいのかもしれない。
この作品は、明らかに人生の機微を知り尽くした「ベテランに愛される作品」だ。若年層からは評価されず、アマオケ中堅世代である20歳から39歳までの層でも7位に留まっているが、40歳以上では1位に躍進する。なお、40歳から59歳の層ではベートーヴェンの作品の人気は高く、交響曲第3番《英雄》が第3位、同じく交響曲第5番《運命》が第9位に入賞している。この世代からのベートーヴェン支持が圧倒的に高いことが分かる。
ベートーヴェンの交響曲第9番の作品難易度は8.2ポイントと全作品平均難易度7.3に比べ+1.9ポイントと高く、とても難しい難易度の作品と評価されている。
楽器別に見ると、ファゴット(9.5ポイント)、ヴァイオリン(8.8ポイント)、ヴィオラ(8.7ポイント)、チェロ、コントラバス(8.6ポイント)、オーボエ、ホルン(8.0ポイント)、と7つのパートで「とても難しいレベル(8.0ポイント以上)」と評価されている。
一方、打楽器(6.3ポイント)、トロンボーン(6.5ポイント)の2つのパートで「やさしい(6.6ポイント以下)」と評価されている。
ベートーヴェンの交響曲第9番は、「アマチュアオーケストラにとって最も演奏が難しい作品」の一つと評価できる。
(注)難易度ポイント=(「とても難しい」回答数*10点+「難しい」回答数*8点+「普通」回答数*5点+「比較的やさしい」回答数*3点+「やさしい」回答数*1点)÷回答総数