はじめに~調査の趣旨・想いについて


アマオケは楽しい。

 

 アマオケに参加したことのある人なら誰でも知っている、リスナーとしてオーケストラを聴いているだけに比べて、練習や合奏を通じて作品や作曲家のことを深く理解し、その結果、強く愛することができるということを。

 

 私もアマオケに魅せられ、30年以上にわたりずっとかかわっている人間です。市民オーケストラに所属するほか、このロマン派音楽研究会も主宰しています。さらには、幸いなことに、近隣のアマオケから度々誘っていただき、マーラーの交響曲第2番《復活》などアマチュアではなかなか取り上げる機会の少ない貴重な作品を演奏することができました。

 

 あらためて私の30年を超える演奏リストを見るとこれまで演奏してきた作品はすでに数百曲に及んでいます。

 

 こうした活動を通じて、様々なアマオケ運営の実態を知ることができました。中でも「選曲」はオケの個性が出るところで、運営の醍醐味であるのと同時に本当に難しい作業だということも知っています。

 

 実際、オーケストラとは、数十名に及ぶ奏者がテンポやリズムを通じて精緻に時間を共有し、音程や音質を通じて物理的現象までも整合させながら作品を作り上げていく複雑な共同作業です。しかも、それぞれの楽器には強い個性があり、役割も異なることから、その困難さは大変なものであり、その克服はまさに醍醐味でもあります

 

 また、時代背景や作曲者のオーケストレーションの癖も重要な要素です。ハイドンやモーツァルトなど古典派の交響曲では、トロンボーンやチューバはもちろんのこと、フルートやクラリネットさえ含まない小さな編成で始まり、ブルックナーやマーラーなどの後期ロマン派の交響曲では8本のホルンを含む巨大な4管編成にまで拡大します。

 

 楽器使用法の好みについては、例えばアマオケ奏者から高い人気を誇るブラームスでは、限られた楽章のみにトロンボーンは使用されており、チューバに至っては第2交響曲に登場するのみ!オーケストラの花形と言えるトランペットでさえ、古典派の交響曲では極めて限定された役割を担うのみですが、マーラーの交響曲では、歌ったり、踊ったり、嘆いたりと、あたかも協奏曲のソリストのような複雑な役割を担うことになります。この差は本当に大きい!!

 

 さらに問題を複雑にするのが、作品ごとの難易度の違いです。それぞれの奏者の技術力にばらつきがあり、必ずどこかに弱いパートを抱えているアマオケにとって、楽器ごとの難易度の異なる作品の選曲が、いかに重要であるかが想像できるでしょう。

 

 こうした複雑な事情を踏まえての選曲には、実際、悲喜こもごものドラマが繰り広げられます。選曲がうまくいき、全体のプログラムがまとまったときは、練習も充実し、本番もきっとうまくいく。一方で、選曲をしくじると練習は停滞し、本番後の打ち上げも盛り上がらないことになる。場合によっては団員が退団したり、最悪の場合、団の分裂に至ってしまったという話しも聞いたことがあります。

 

 私は、かねてから選曲に参考となるようなデータベースの必要性を感じていましたが、紙ベースでの調査にはなかなか踏み込めずにいました。しかし、今般のインターネットの力で効率的に調査を実施することができました。

 

 具体的には、Googleフォームでアンケートを設計し、フェイスブックやツイッターで呼びかけたところ、多くのアマオケ奏者の皆さんから賛同をいただき、およそ1年間をかけて600名を超える回答を得ることができました。その結果を分析してまとめたのがこの分析です。この場をお借りして、協力いただいたすべての方に感謝申し上げます。

 

 アンケートの設計から集計、分析に至る一連の作業は、それは楽しいものでした。結果については、内容をご確認いただきますが、私の想像どおりの結果となった部分もありましたが、一部、意外な結果を示したものもありました。インターネットでの調査は大変メリットが多いものですが、これを駆使する世代に偏りがあることから、回答自体に一定の偏りが生じたことは否定できません。

 

 音楽の感じ方は、人それぞれであり、「難しい」とか「易しい」という判断にも、様々な意味や基準が存在します。本来、数値化したり、平均化したりできるものではないのは当たり前のことです。この分析をご覧の方には、選曲の一つの参考にするとともに、一種の『知的ゲーム』としてお読みいただければ望外の喜びです。

 

ロマン派音楽研究会代表幹事