KAFFEE PAUSE

モーツアルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲変ホ長調K.364


■作曲:1779年ザルツブルク

■編成:独奏ヴァイオリン、独奏ヴィオラ、オーボエ2、ホルン2、弦楽6部

(オーケストラのヴィオラも2部になっているのが特徴)

■構成:3つの楽章。演奏時間は約30分

 第1楽章:アレグロ・マエストーソ 変ホ長調 4分の4拍子。協奏風ソナタ形式

 第2楽章:アンダンテ ハ短調 4分の3拍子。ソナタ形式

 第3楽章:プレスト 変ホ長調 4分の2拍子。ロンド形式

 

 

■作品について 

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、1756年 1月27日、現在のオーストリアの地方都市、ザルツブルクに生まれました。幼少時から、父レオポルトによって音楽教育を受け、3歳からクラヴィーア(ピアノの前身)を弾き、5歳のときには 最初の作曲(『アンダンテ ハ長調 K.1a』)を行うなどまさに神童で、その後、35年の短い生涯の間、オペラ,交響曲,ピアノ協奏曲のほか,軽い舞曲に至るまで多くの作品を残しました。

 その作品は、完璧とも言える様式美と極めて優美(zart)なたたたずまいの中から、時折、神が語りかけているかのごとき深遠な世界が垣間見える瞬間があり、まさに「神に愛された(Amadeus)」唯一無二の天才と言えるでしょう。

さて、この曲が作曲されたのは1779年。当時、パリやマンハイムで、協奏交響曲(sinfonia concertante)というジャンルが流行していたことから、モーツァルトはこのジャンルに挑戦したと考えられますが、管楽器のための作品は散逸してしまい、完全な形としては、この珠玉の2つの弦楽器のための作品だけが後世に残されました。

彼が優れたピアニストであったことはよく知られていますが、卓越したヴァイオリン奏者でもあり、室内楽を演奏する時には好んでヴィオラを演奏することも珍しくなかったと伝えられています。モーツァルトは、こうした経験を踏まえ、輝かしい音色を持つヴァイオリンに対して、ヴィオラの音色をより明るく、輝かしくすることを狙って、通常より半音高く調弦する指示を行っています。

 しかし、楽器、弓、そして弦のすべてが強靭化された現代において、ヴィオラの調弦を変えなくても、十分にヴァイオリンとのバランスが保たれます。本日の演奏でも、モーツァルトが指定した調弦を行っておりませんが、果たしてヴァイオリンとヴィオラの音量、音色はどのようなバランスで響くのか、皆さん、実際にお聴きになって判断してみてください。

 

第1楽章 アレグロ・マエストーソ 変ホ長調 4分の4拍子。協奏風ソナタ形式。(約12分)

 管弦楽と二人の独奏者との"協奏曲"的側面の中にも、交響曲としての特徴が数多くあります。堂々とした第1楽章では、両ソリストが登場する前にオーケストラによる大変長大でシンフォニックな導入部があります。オーケストラが次第に静まっていくと、二つの独奏楽器が"対等"であることを強調するかのように入ってきます。この絶妙な導入部分はまさに天才の発想に満ちた瞬間です。ぜひ、注目してお聴きください。その後は、ソナタ形式の明るい気分を基調とし、時折、一瞬の陰りを帯びながら、2つの独奏楽器とオーケストラによる音の遊戯が繰り広げられていきます。

 

第2楽章 アンダンテ ハ短調 4分の3拍子。ソナタ形式。(約12分)

 ゆったりした2楽章は変ホ長調の平行調のハ短調で書かれており、モーツァルトが書いた作品の中でも最も直接的に「悲しみの感情」が吐露され、限りなくロマン派音楽の世界に近づいた作品と評されています。直前に母を失ったモーツァルトの心の悲しみと嘆息が表現されていると考えられています。終盤にモーツァルト自身によるカデンツァが二つの独奏楽器によって繰り広げられますが、楽器のテクニックを誇示するというよりも、二つの独奏楽器が、親密な対話を繰り広げているかのように聞こえます。あまりに素晴らしいこの作品の白眉です。

 

第3楽章 プレスト 変ホ長調 4分の2拍子。ロンド形式。(約6分)

 プレストの終楽章は、一転、遊び心溢れるロンド形式で、ヴァイオリンとヴィオラが陽気に追いかけっこを繰り広げているような華やかで技巧的な楽章です。

 

2019年11月3日演奏会プラグラムノートから